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「の、信長様、なぜここに……ワシの方が先に、着いたのに」
「どうした禿鼠、青い顔をして」
安土城の主となるその人、織田信長。しかしまだ安土城は土台すら出来ていないのだ。ここに来る必要のない信長が、安土の山に、彼の隣に、来てしまっていた。
「はは……本日も、よい御日柄で」
「うむ、余は実に気分が良いぞ、禿鼠」
信長は秀吉を、小柄で個性のある顔立ちから、猿だの禿鼠だの失礼なあだ名で呼ぶ。しかし己の息子にさえ奇妙丸と幼名を付けるくらいだ、感性が人と違うだけで、さして悪気はないのだろうと秀吉は考えている。とかく信長という人間は、まともに接してはならない男なのだ。
「で、血相を変えてどうしたのだ、禿鼠」
「あ、いや、その……信長様が安土に向かわれたと聞きまして、長秀殿にお伝えしなければと」
「相も変わらず気の利く猿だな、お前は。しかし余と五郎左の仲だ、過度な接待は無用ぞ」
「は、はい……」
信長を迎える接待のために駆けつけたならどんなに良かっただろうかと、秀吉は心の中で嘆く。秀吉がわざわざ自ら飛び出してきたのは、安土城建設のため集められた者全ての命を守る為なのだ。
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