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煮え切らない態度の秀吉に、信長は気分を害し眉間に皺を寄せ始めている。機嫌が悪くなれば、信長は何をするか分からない人間だ。秀吉は一か八かの賭けに出るしかなかった。
「長秀殿、聞いただろうか? 今回信長様が、なぜ安土へ参られたのかを」
安土城普請が始まって、たったの1ヶ月しか立っていない今、信長がここに現れる理由はない。未来の安土城が立つとはいえ、ここはまだ整地すらろくにされていない山なのだから。その地へ現れたのは、実に信長らしい理由だった。
「それは余が説明したぞ。余は早く安土城に住みたいが故に、こうして引っ越そうと決めた、とな」
秀吉は改めてその理由を聞くと、そのまま倒れてしまいそうなくらい気が遠くなる。安土城建設は、一世一代の大仕事である。1ヶ月で引っ越してきたところで、住む場所などあるはずがない。土台すら、まだ作られていないのだ。にも関わらず信長は、居城、しかもついでと言わんばかりに家督まで息子に譲ると言い出し、安土へやってきてしまったのだ。
「禿鼠、先程も話したが、余と五郎左の仲だ。仕事も忙しかろう、特別な出迎えはいらん。ただ、この地に住めればよいのだ」
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