信長のダチ

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   信長は自分がさも心の広い名君のような話し振りであるが、実際は迷君そのものである。住めればいい、とは言うが、その住む場所はまだ更地なのだから。  しかし長秀は、話を聞いたわりに落ち着いている。秀吉はそれが不思議で、首を傾げた。 「長秀殿、信長様はそう仰られておりますが……」  住む場所がないから帰れ、などと話せば、それが正論であっても信長は激怒するだろう。この場にいる全員を切り捨てて、晒し首にしかねない。だからこそ秀吉は信長より早く長秀と会い、どうにか穏便に信長を帰す方法を相談したかったのだ。  大工達や自らの命すら危機に陥っていると言うのになお、長秀は穏やかであった。すると長秀は北を指差し、信長と秀吉、二人に声を掛けた。 「それではお二人とも、こちらへどうぞ。こんな事もあろうかと思って、用意していましたよ」 「用意って……まさか」  秀吉は一つの可能性に気付くと、思わず駆け出す。少し走ると、秀吉の目に思わぬ物が止まった。  城、ではないが、大名が寝泊まりしても失礼のない大きさの屋敷。1ヶ月前には間違いなく存在しなかった建物が、そこに建っていたのだ。  
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