第一幕

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「これはこ~やって、こう! わかった?」 「…」 実家に帰ってきて、最初にやったのはアパート回りの金銭管理だった。 女性と男性だと感覚が共有しにくいというのは前職でもあったが、理解すらも出来ないというのは驚いた。 たかだか小さいアパート。昔からのほほんとやっていた父と母の姿を見て、自分でも出来ると思っていた。 が、いざ触れてみると、その自信はあっという間に萎み終始質問しか出来なかった。意気込んだものの頼ってばかりいて自身が子供みたいに見えて恥ずかしかった。 元々現場に立って先陣切り、客と対話する仕事だったので、こういう会計業務は触りもしなかったから無理は無い。 まぁ、時期が来れば忙しくなることなので日頃から少しずつやっていればどうということは無いというコツは掴んだ。 そして、近所の回覧板のルートや自分の住んでいる地域の行事(主に掃除)など。一家の代表の男手が自分なのでご近所さんに聞きながら覚えていくがこれも毎月何かしらあり把握するころにはおじさんになっているだろう。 「もう少しきちんと家の事を把握してから、近場のバイトでも探そう」 マナー本を片手にポツリと呟く。最近は近所の職業案内所にも行ったが…あの雰囲気には馴染めず壁紙のチラシだけ見て帰ってきてしまった。 その帰り道―大型スーパー、ファーストフード、ファミリーレストラン、パチンコ屋、ゲームセンター、郵便局、古本屋等… 自分自身で歩いて探した方が遥かに楽しく、世間は選り取り見取りに人員を募集しているという事実が分からされた。 「おっと、昼前の鐘が鳴ってる。そろそろ行こうかな」 「あら、行くのかい? ご飯はどうするの?」 俺が本を畳み身支度を始めると、母は尋ねてきた。 「帰ってきてから食べるよ。チャリで行くし事前に必要なこと聞くだけだから1時間もしないうちに帰ってくる」 「そっかい。んじゃあ、気を付けて行ってきな~」 母は、いつまで経っても俺が外に行く度に「気を付けて」と言ってくる。 …もう、子供じゃないのに。
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