序章

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「ただいまー。 いってきまーす。」 カバンを放り投げ、小走りで駆け出す。 「どこ行くのー?桜ー。」 2階のベランダから、ひょっこりと顔を出した母が言う。 「いつものトコー!」 向かったのは、向かいにあるお寺。 そのお寺には、大きな桜の木がある。 その桜の木に登るのが、私の毎日の日課だ。 桜の木の上から見る世界は、違って見えた。 上からは、広い野原に一本の川が流れている、そんな光景が見える。 今は春。 私が登っている桜も満開で、そこから見える野原も綺麗な花でいっぱいになっていた。 「やっぱ、きれいだなぁー。」 私はその日、日が沈むまでそこにいた。 日が沈む頃、野原を通る一本の川が赤く染まる。 その幻想的な景色に魅入られる。 ゴーン、とお寺の鐘が鳴り、夕暮れを知らせる。 「そろそろ帰ろっと。」 木から降りようとして体を動かした。 いつものようにスラスラと降りてく。 スカッ 手を置こうとしたそこには、何もなかった。 「え?」 私は背中から、真っ逆さまに堕ちてく。 見える木の形から、地面までの距離は大体わかった。 そう、短い距離じゃない。 ―――――――――私は、目を閉じた。
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