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「いや、俺は何も見てないので」
使用人のセリアンは気まずそうに主たる銀瑤から視線を逸らす。
気を使うところがいささかずれている気がしないでもない銀瑤だ。
「…用件は?」
「あ、当主様がお呼びです」
さっくり告げられた内容に一瞬、銀瑤の時が止まる。
「先に言えーーー!!」
そう叫ぶと同時に銀瑤は尻尾に頬擦りしてるイーグルを引き剥がすと部屋から飛び出して行った。
背後から「俺のラマン!」などと言うイーグルの叫びが聴こえた気がしないでもないが些末なことだ。
◇◆◇
イーグルの叫びを背後に置き去りにして銀瑤は父の部屋へと足を速めた。
どうにも妙な感覚が胸の辺りに燻って蟠る。
先日の肝試しもそうだ。
父が提案したことだが何やら裏があると考えた方がいいだろう。
あの父は家のためにならないことはしない。
何があっても。
胸というか胃が痛い。
父の部屋は南対屋の奥にある。
開け放られた几帳が風に揺れていた。
一応大貴族と呼ばれる宿禰の当主にしてはいささか無用心ではないかと思われるがそんなことはない。
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