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父の部屋があるこの対屋までは銀瑤の部屋からは幾分か距離がある。
しかし、父の耳には先ほどのイーグルとのやり取りが聴こえていたようだ。
くそぉ、あの変態紳士めなどと内心で友人に対して毒づいている銀瑤の頭を、父が丸めた料紙で軽く叩いた。
「話を聴く体勢を取りなさい」
「すみません」
自分に非があったのを素直に詫びて、銀瑤は居住まいを正す。
「銀瑤 お前ちょっと朝霞の邸に遣いに行ってこい」
「は?」
父の口から出た台詞と銀瑤の口から間の抜けた単語が出たのは、ほぼ同時だった。
◇◆◇
朝霞。
それは宿禰の一族と昔から懇意にしている隣街の金孤の一族だ。
母もこの一族の流れを汲んでいて、謂わば遠戚のようなものだった。
だが、と銀瑤は思う。
「父上 何故俺なのですか?遣いならば鳳鴇にでも行かせたらいいじゃないですか」
にこにこと不自然にならないように笑みを浮かべて口にすれば父の紅の双眸が一瞬煌めく。
「ほう?この私が行けと言っているような件を使用人に行かせろ、とお前は言うわけだな?銀瑤」
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