1【歓楽島】

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{2} さて。 その歓楽島の『西側』…つまり、島の『無人の地域』に 『ショッピングセンター』を建てようと発案した人物がいた。 現在、日本各都市に次々と巨大ショッピングセンターを建て、大きな収益を収めている 『ルーク・ホールディングズ』の会長、的場秀一郎(まとばしゅういちろう)である。 『ルーク・ホールディングズ』と言えば、今やショッピングセンター事業は元より、 『ルーク損害保険』『ルーク食品』『ルーク製薬』『ルーク出版』など、ありとあらゆる業界に触手を伸ばして成功を収めている超巨大企業体であり、 秀一郎は、その企業体を一代で築き上げた『らつ腕』経営者である。 しかし、その彼も70歳と高齢を迎えたのを機会に、自分は社長から会長職へと引退をし、 養子の浩太郎(こうたろう)へ社長の椅子を譲ってから、ちょうど一年の月日が経つ。 実は、秀一郎会長は歓楽島の出身者である。 今回のショッピングセンター建設案は、 「生まれ故郷の島に錦(にしき)を飾りたい」 という事なのであろうが 現社長の浩太郎をはじめ会社の重役陣は一様に首をひねった。 と言うのも、 現在に到るまで会長の秀一郎は、とにかく『利益最優先』をモットーに、多少『強引なやり方』をしてでも会社を大きくして来た。 その彼が、いくら生まれ故郷だからと言って、 採算が取れるかどうか分からない北海道から遠く離れた『辺境の島』に予算を注ぎ込んでショッピングセンターを建設するとは、とても思えなかったのである。
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