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8【陣中見舞】
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迷子センターの場所は、すぐに分かった。
花村マリ子はノックもそこそこにセンターのドアを押し開け、部屋に駆け込んだ。
「あの!さっきアナウンスで呼ばれた花村頼子の母です!」
センターの内部は中央にテーブルが有り、それを取り囲んでパイプ椅子が数脚置いてあった。
その椅子に制服姿の女性職員が二人座っていた。
娘の頼子の姿は、無かった。
「はい。花村頼子ちゃんのお母さんですね?」
一人の女性職員が立ち上がると、にこやかな表情で静かに言った。
「はい!そうです!」
「ちょっとお待ち下さいね」
女性職員はそう言うと、奥に有るドアを開けて隣室へ入って行った。
そして、小さな女の子を連れてまた戻って来た。
「ママっ!!」
「頼子!!!」
頼子は、今まで泣いていたのか目の周りが真っ赤に腫れていた。
マリ子は、思わず駆け寄り娘を抱きしめた。
「ごめんね!さっき、手離しちゃてごめんね!」
「ママ!ママ!」
頼子もマリ子に、力いっぱい、しがみついてきた。
「本当にありがとうございました!」
マリ子は女性職員に向き直ると深々と頭を下げた。
「ママ、あのね。私、お巡りさんに連れて来てもらったんだよ」
その横で頼子が嬉しそうに言った。
「お巡りさん?」
「いえね。ここの警備員さんが店内で泣いてる頼子ちゃんに気付いて、ここに連れて来てくれたんですよ」
女性職員が笑顔を崩さずに頼子の言葉を解説した。
「そうだったんですか」
まあ…頼子から見れば、お巡りさんも警備員さんも見分けは付かないだろう。
「その警備員さんに私からもお礼言わなきゃ…。
あの、その警備員さんのお名前って分かりますか?」
「さあ。名前までは、ちょっと…」
女性職員は、少し困った様子で言った。
「そうですか…」
「ごめんなさいね」
「いえいえ!本当にありがとうございました!」
マリ子は女性職員に再び深々と頭を下げると頼子の手を引いてセンターを後にした。
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