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10【拾った物】
{1}
花村マリ子と娘の頼子がイベント広場に戻ると、
マグロの解体ショーは既に終了していた。
先程まで押し合いへし合いしていたあの物凄い数の群衆は
嘘の様に跡形も無く、いなくなっていた。
広場の中央ステージ上に有ったテーブルも巨大まな板も、すっかり片付けられステージ下の床を制服姿の清掃員が数名、モップがけやゴミ拾いをしていた。
「なぁーんだぁ。解体ショー終わっちゃったんだぁ。つまんないのぉ」
頼子が肩をがっくりと落として、ため息をついた。
と、近くでゴミ拾いをしていた清掃員の中年女性が
「あらぁ。お嬢ちゃん残念だったわねぇ。
でも、またここで二時からビンゴゲーム大会有るから、その時また来てねぇ」
と、ニコニコしながら声をかけてきた。
「本当?わぁーい!
ねぇ!ママぁ!二時からまた、ここ来ようよぉ」
頼子は解体ショーの時の
あの『人だかりに、もみくちゃにされた恐怖体験』の事など、すっかり忘れたが如く、マリ子の腕にしがみついた。
「あはは。かわいいお嬢ちゃんですねぇ」
中年女性は、ニコニコしながら作業に戻っていった。
マリ子は、その中年女性に笑顔で目礼した。
「ねえ、ママぁ。あのステージに上がってみようよ」
いきなり、頼子が広場の中央ステージを指さして言いだした。
「こら。ワガママ言わないの。お掃除の邪魔になるでしょ」
マリ子がそう言うと、
「構わないですよ。でも、落ちないように気を付けてね」
と、清掃員の中年女性が再びニコニコ笑いながら声をかけてきた。
「え?良いんですか?」
「ええ。どうぞどうぞ」
「すみません」
マリ子は中年女性に申し訳なさそうに一礼した。
「ほら頼子。上がって良いって。でも、ちょっとだけだよ」
「わぁーい!やったぁ!!」
二人はステージに上がってみた。
上がってみると、先程までここでマグロの解体をしていたからだろう、
ちょっと生臭い臭いが、つんとマリ子の鼻を突いた。
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