11【魔楽器】

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「ところで…大山さん」 と、塩野が『大山と二人きりになるのを待っていた』と言った感じで、いきなり身を乗り出してきた。 「うん?何じゃ?」 「さっきの『海胡』の演奏… 確かに、とても素晴らしかった…。俺も凄く感動したよ」 「うむ。ありがとう」 「でもな…」 と、塩野はタバコをテーブルの上の灰皿で揉み消した。 「あの『海胡』って楽器… どうも『普通じゃない』気がする」 「何じゃと?」 「実は… さっきの解体ショーの時、あの音色を聞いてたら だんだんと頭ん中が、ぼぉっとし始めて…」 塩野は、先程の解体ショーでの『体験談』を大山老人に話した。 マグロのヒレを切ったら、痛がるような声が聞こえてきたり… マグロの頭を切り落とそうとしたら、マグロの目がギョロリと動いた様に見えたり…。 「俺、マグロの解体は何度もやっているが、あんな事は初めてだ」 「………」 「大山さん…もしかして、あの『海胡』って楽器…何か『ワケ有り』なんじゃないのか?」 「何…じゃと?」 「どうも、俺にはあの楽器が何か『得体の知れないチカラ』を持ってる様な気がしてならないんだよ」 「……………」 大山老人は、湯飲みのお茶を『ごくり』と飲み込んだ。 「あ、気を悪くしたら済まん。 もしかしたら、俺の気のせいかもしれん。忘れてくれ」 「いや……」 「さて。ちょっと売場をぶらついて来るかな。 今日は本当に、ご苦労様でした」 と、塩野はおもむろに立ち上がった。 「うむ。塩野さんの方こそ、ご苦労さんじゃったの…」 大山老人は一人、休憩室に残った。
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