11【魔楽器】

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{2} 「そう言えば… 昔、『海胡』を売って欲しい、と言ってきた男がおったな…」 と、大山は思い出した。 それは、彼がまだ幼少の頃の事だから、実にもう六十年前くらい昔の話だ。 ある日、 ある男が歓楽神社へとやって来た。 そして当時、神主だった大山の父に、どこで『海胡』の事を聞き付けたのか、売ってくれと言ってきたのだ。 その時、確か父は 「『海胡』は、誰にも譲るつもりは無いし、どこにも公表するつもりも無い」 と、その男を追い返したのだった。 それ以来、『海胡』を売ってくれと言ってくる人間は、いない。 「あ…」 と、大山は更に当時の事を思い出した。 父がその男を追い返した日… 神社の宝物庫から『海胡』が無くなって、大変な騒ぎになった。 父は 「きっと、さっきの男が盗んだに違いない!」 と、人を集め、島中を捜索した。 そして、結局、その男は見付からなかったのだが 島の『西側』(人が誰も住んでいない地域)で『海胡』が見付かり 事件は一応、落着したのだった。 あの男は…何者だったんだろう…。 「しかし…」 と、そこで大山老人は苦笑した。 「そんな大昔の話をワシも、よく覚えていたものよのぉ」 大山老人は今年で、ちょうど70歳になる。 だから、自分が10歳やそこらの頃と言えば、だいたい六十年くらい前の話になる訳だ。 「確か…秀一郎も、今年で71歳になると雑誌に載っとったな…」 よく「年寄りは、昔の事だけはよく覚えているものだ」なんて失礼な事を言う輩(やから)がいるが さすがに六十年も昔の幼なじみの顔や名前など、 普通は覚えていないものだ。 しかし、大山が『的場秀一郎』という名前を今も覚えているという事は… 恐らく、当時よほど強い『繋がり』が二人の間に有ったのだろう。 ただ… ここ数年、経済誌やテレビのニュースなどで 『ルーク・ホールディングズの的場秀一郎』の顔をちらほら見掛ける様になり… そして、そのプロフィールに『歓楽島出身』と有る事から、 すっかり忘れていた彼の事を不意に思い出したというのも有る。
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