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12【消えた男】
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「………う…」
花村マリ子は、ふと目を覚ました。
気が付くと、自分はベッドに寝ていた。
ここは…どこだろう…。
と、
「あ!ママっ!気が付いたのね!」
マリ子が声のした方を見ると、ベッドの横に娘の頼子がいた。
目の周りを真っ赤に泣き腫らしている。
寝ているマリ子の手をぎゅっと握りしめていた。
「…頼子?」
「良かったぁ!もう目を覚まさないのかと思ったよぉ!」
頼子はマリ子の腕にすがって泣き始めた。
徐々に…
マリ子の頭の中が整理され、状況がだんだんと飲み込めてきた…。
「そうか…。さっき、イベント広場のステージの上で『あの緑色の目玉』を見て…」
恐らく、気絶をしてしまったのだろう…。
改めて、周りを見てみると…
ここは『医務室』か何かのようだ。
マリ子はニッコリ微笑むと、上半身を起こして泣きじゃくる頼子の頭をそっと撫でた。
「心配かけて、ごめんね…。もう大丈夫だよ」
と…
「やあ、気が付かれたましたか!」
一人の年配警備員が部屋に入って来た。
「具合は、どうですか?」
マリ子は一瞬、その警備員が、さっきの眼帯をした『目黒警備員』かと思ったが、
眼帯もしていないし、よく見ると別人だった。
「ええ。もうすっかり良くなりました。ご心配かけて申し訳有りません」
マリ子は頭を下げた。
「ところで、ここは…どこですか?」
「ショッピングセンターの医務室ですよ」
「そうですか…」
「でも、何事も無くて本当に良かった。
いや、びっくりしましたよ。私が巡回でイベント広場の前を通りかかったら、ステージの上で奥さんが倒れているんですもの」
「ホントだよっ!もうっ心配したんだから!」
横から頼子が小さなほっぺを膨らまして言った。
「ごめんね。頼子」
マリ子は、再び娘の頭を優しく撫でた。
「警備員さんもありがとうございます」
「いえいえ」
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