745人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、マリ子は
「今夜は、お店を『臨時休業』にして頼子と一緒に過ごそうか…」
と考えた。
マリ子は、ベッドから静かに下りた。
「さ、頼子。買い物して帰ろ」
娘の手をそっと握った。
「うん。分かった」
頼子もマリ子の手をそっと握り返してきた。
マリ子は、改めて年配警備員に頭を下げた。
「今日は、いろいろありがとうございました」
「い、いえいえ」
警備員も恐縮している様子だ。
と、その時、
マリ子は、その年配警備員の右胸に付いているネームプレートに、
ふと目を止めた。
そこには、
『星咲』という漢字二文字が彫り込まれてあった。
…うん?
…『星咲』?
「あ、申し遅れました。
私、星咲(ほしざき)って言います。珍しい名前ですよね。ハハ」
と、マリ子の視線に気付いたのか、星咲警備員は頭をかいて笑った。
『星咲』……。
マリ子は、その名前に聞き覚えが有った。
あの『目黒青年』が…
以前、マリ子の店にお客で来た時…
確か、こんな事を言っていたのだ。
「いやぁ。
今の夜勤警備の相方なんだけど、俺なんかより全然、大ベテランでさぁ。
結構、頼りになる人なんだよね。
お空の『星』に、花が咲くの『咲』って書いて『星咲さん』って人なんだ。珍しい名前だよねぇ」
さっき…
星咲警備員は、
「自分は夜勤明け」だと言った。
目黒青年が話していた…
夜勤警備の相方の名前も星咲………。
これって…
ただの偶然と言えるだろうか…。
口から出まかせで…
こんな事、言えるだろうか……。
その時、マリ子の『勘』が急速に働いた。
もしかして…
やっぱり、目黒さんは
嘘なんかついていなくて…
『本当に』このショッピングセンターの警備員で…
でも…
実際に今日、ここに来てみたら…
『目黒って名乗っている』別の警備員が、いて…。
『目黒なら今日、夜勤明けで疲れて家で寝ている』と言うのなら、まだ話は分かる。
しかし…
あの『眼帯の警備員』は、はっきりと言ったのだ。
『ルーク警備保障にいる、目黒という名前の警備員は自分一人しか、いない』と………。
それって……。
もしかして……………。
最初のコメントを投稿しよう!