13【研究者】

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13【研究者】

{1} 稚内の駅ビルで商談を終えた 的場浩太郎社長は、ふと腕時計を見た。 時刻は、ちょうど昼の一時。 この時間だと… 歓楽島のルーク・ショッピングセンターでは、 『プレ・オープン』の目玉イベント『マグロの解体ショー』が、少し前に終わったといった所であろう。 「それにしても…自分も聞いてみたかったな…。大山さんの『海胡』の演奏…」 浩太郎は今朝、『自分は午前中に島を離れなければならない』と言った時に、大山老人が、さも残念そうな表情を浮かべたのを思い出した。 島に代々、伝わる弦楽器の調べか…。 きっと、心が洗われる様な『ゆったりとした』気分に浸れるんだろうな…。 たまには、そういうのも良いな………。 ここの所、歓楽島のショッピングセンター建設も含め、連日多忙を極めていた浩太郎は ふと、そんな事を思った。 「さてと…」 浩太郎はビル内の食堂で昼食をとり、午後からの予定に備えた。 基本的に、浩太郎は大企業の社長ではあるが『運転手付きの社用車での移動』というのは、あまりしないし、他の社員を同行させる事も、あまりしない。 もっぱら移動は公共交通機関を利用し、単独で行動する事が多い。 浩太郎としては、その方が何かと小回りが利くからだ。 午後からの移動もバスを利用する予定である。 実は…午後からの『もう一つの予定』は、 仕事とは無関係なのだ。 以前、大山老人から聞いた『かつて、歓楽島で島の歴史の研究をしていた人物』… 今年、116歳になるという小田少左衛門氏に会う事になっているのである。 浩太郎は歓楽島の歴史について、どうも腑(ふ)に落ちない点がいくつか有って時間ができたら個人的に調べてみようと考えていた。 大山老人から小田氏の事を聞いた浩太郎は、 先日、稚内に住む小田氏に電話連絡をしてみた。 そして、是非とも会って歓楽島の歴史について話を聞きたい旨を伝えると 「いつでも会うから、好きな時に家に来てくれて構わない」 と、快い返事をもらった。 それなら、ちょうど近々、稚内に行く用事が有って午後から時間を作れると伝えると、 「じゃあ、その日の午後二時から会おう」 という事になったのだった。 小田氏が住むアパートの住所は、事前に小田氏本人から聞いて行き方も分かっている。 駅ビルでお菓子の詰め合わせを『お土産』として買った浩太郎は、 早速、小田氏が住むアパートへとバスで向かった。
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