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バスから降りると、
小田少左衛門氏のアパートはすぐに分かった。
外壁の所々が黒っぽく変色した、どこか『朽ちた』感じのする古いアパートだった。
浩太郎はその建物に入り、二階の201号室の前まで来ると呼び鈴を鳴らした。
すると、
「はいはい、ちょっと待って下され」
と、老人らしき声が聞こえ、ドアがガチャッと開くと中から白髪頭の老人が顔を覗かせた。
「あの、すいません。
私、先日お電話しました的場浩太郎です。
小田少左衛門さんですよね?」
浩太郎が笑顔で頭を下げると
「おお!こないだ電話くれた人じゃな!待っとったよ!ささ、上がって」
小田老人は、ドアを大きく開いた。
浩太郎は「それでは失礼します」と小田老人の家の中へとお邪魔した。
玄関から中に入ると居間とおぼしき、広い部屋が目の前に広がった。
真ん中に、ちゃぶ台が置いてあり、その上には広げたままの新聞が無造作に置いてあった。
奥にテレビが有り、その左側には戸棚、右側にはキッチンと冷蔵庫が有った。
「これ、つまらない物ですが」
と、浩太郎は駅ビルで買ったお菓子の詰め合わせを小田老人に手渡した。
「お、こりゃどうも」
と、小田老人はそれを受け取ると中身も確認せずに冷蔵庫に入れた。
「しかし…」
と、浩太郎は感心した。
「失礼ですが…実にお若いですねぇ。小田さん」
改めて小田老人の立ち姿を見ると、体格は小柄で少し腰は曲がっていて、確かに風貌は老人だが、
それにしても、今年71歳になった義父の秀一郎や歓楽神社の大山老人とそれほど変わらない年齢に見える。
とても、116歳のご長寿には見えない。
「あはは。そうかのう」
と、小田老人は快活に笑った。
浩太郎は、彼のその快活さが歓楽神社の大山老人と何となくダブった。
「まあ、狭いとこじゃが、ゆっくりしてってくれや。気ままな一人暮らしじゃから」
「あの、小田さん…ご家族の方は?」
「うん?そんなもの、おりゃせんわ。皆、ワシより先に死んでしもたわ」
「そ、そうでしたか!これは失礼しました」
「良いて良いて。
まあ、寂しいと言えば寂しいかの。長生きも良し悪しって事じゃよ」
小田老人は、ニコニコ笑っている。
「まあ、座って座って」
「はい。じゃあ失礼します」
二人は、ちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座った。
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