解かれた調べ

6/8
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 鏡の中の彼女は、オレを見て小首を傾げている。 「だれ……?」  口を開く彼女……。  だれ?……って、こっちが聞きたい。 「さっきのピアノ、キミが弾いてたの?」 「うん♪」  妙に明るい、彼女の返事……なんか、調子狂う。 「だれに教わったの?」 「なにが~?」  また小首を傾げる彼女。  さすがに、このリアクションにはイラっとくる。 「だから、さっき弾いてた曲だよ」 「あ~、あれですかぁ~? 今日の朝、聴こえてきたんでぇ~、弾いてみたんです~」  邪気のない、明るい笑顔。  ド天然か、このコ……話をすればするほど、聞いてるこっちの頭がおかしくなる。 「あれ、オレが作った、夜想曲なんだけど」 「そうですかぁ~、ステキなノクターンですね~」 「え……? あ……ど、どうも……」  そう素直に誉めらると、なんだか恥ずかしい。 「あの~、あなたのお名前"日暮"さんですかぁ?」 「えっ……?」  体操着にクラスと名前が書かれた、ゼッケンが貼りつけてある。 「あぁ……日暮櫂斗……櫂斗って、呼んでいい」 「わかりました~」 「キミは……?」 「糸川深景って、いいま~す」  やっぱり……。  十年前、ここで亡くなった女子生徒……。  死の直前まで、ピアノを弾いていた。  なぜ、彼女はこんなところで、ひとりでピアノを弾いていたのだろう。  自分の命が尽きてしまうまで。  その彼女が、目の前にいる。  問い質したい衝動もある。  ……が、能天気な彼女に対して、そんなことを聞くのも無粋な気がする。  初対面。まったくの他人。亡くなったのは、十年も前のこと。  なぜ、彼女はオレの夢に現れたのか?  たまたま、偶然……彼女の意思とリンクしてしまった。それだけのことか?  分からないことだらけだ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!