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鏡の中の彼女は、オレを見て小首を傾げている。
「だれ……?」
口を開く彼女……。
だれ?……って、こっちが聞きたい。
「さっきのピアノ、キミが弾いてたの?」
「うん♪」
妙に明るい、彼女の返事……なんか、調子狂う。
「だれに教わったの?」
「なにが~?」
また小首を傾げる彼女。
さすがに、このリアクションにはイラっとくる。
「だから、さっき弾いてた曲だよ」
「あ~、あれですかぁ~? 今日の朝、聴こえてきたんでぇ~、弾いてみたんです~」
邪気のない、明るい笑顔。
ド天然か、このコ……話をすればするほど、聞いてるこっちの頭がおかしくなる。
「あれ、オレが作った、夜想曲なんだけど」
「そうですかぁ~、ステキなノクターンですね~」
「え……? あ……ど、どうも……」
そう素直に誉めらると、なんだか恥ずかしい。
「あの~、あなたのお名前"日暮"さんですかぁ?」
「えっ……?」
体操着にクラスと名前が書かれた、ゼッケンが貼りつけてある。
「あぁ……日暮櫂斗……櫂斗って、呼んでいい」
「わかりました~」
「キミは……?」
「糸川深景って、いいま~す」
やっぱり……。
十年前、ここで亡くなった女子生徒……。
死の直前まで、ピアノを弾いていた。
なぜ、彼女はこんなところで、ひとりでピアノを弾いていたのだろう。
自分の命が尽きてしまうまで。
その彼女が、目の前にいる。
問い質したい衝動もある。
……が、能天気な彼女に対して、そんなことを聞くのも無粋な気がする。
初対面。まったくの他人。亡くなったのは、十年も前のこと。
なぜ、彼女はオレの夢に現れたのか?
たまたま、偶然……彼女の意思とリンクしてしまった。それだけのことか?
分からないことだらけだ。
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