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「櫂斗……」
深景の呼ぶ声。
名前を呼んでくれて、ちょっと、嬉しい……。
「なに……?」
「深景のピアノ、どうだった?」
「え……あ、うん……」
いきなり聞かれても、困る。
「ぜんぜん、ダメダメだよね……」
憂いを帯びた、深景の表情。
「違うよ! ダメなんかじゃない!」
「……」
「……つーか、一回聴いただけで、耳コピで覚えてあそこまで弾けるなんて、むしろフツーじゃないっていうか……スゲーよ」
「ホント? 深景、スゴイ?」
深景の顔が、また明るさを取り戻す。
「あぁ……オレより、巧いって、ホントにそう思った」
「そんな……だって、櫂斗の作った音楽だよ」
「確かにね……でも、作曲は頭でできるけど、演奏はまた別だろ? 呼吸するのと同じくらい、自然に身体が動く……それが、ピアニストの本質だから」
「ほんしつ……?」
よく分からない……と、いった感じで、また小首を傾げる深景。
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