解かれた調べ

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「とにかく、作曲したオレが言うんだから、間違いないって」 「うん……でも、深景……櫂斗のお手本見たいな」 「え……? いや、それは……」 「見たいな……」  満面の笑顔で、プレッシャーをかけてくる深景。 「ゴメン……オレ、もうピアノは弾かないって、決めたんだ」 「……?」  さらに、深く首を傾げる深景。 「だから、ゴメン……その曲は、ずっとキミが弾いててくれ」 「でも……朝、聴いたのは櫂斗のピアノだったよ」 「それは、オレの夢の中のことで……」 「わかんない……なんで夢の中なら弾けるのに、いまここで弾けないの?」 「理由はキミには言えない」 「……櫂斗は、ピアノがキライ?」  深景の泣き顔……そんな顔、しないでほしい。 「とにかく、オレはもうピアノを弾かない……そう決めたんだ……」  授業終了のチャイムが鳴り響く。 「教室、戻らないと……」 「うん……ゴメンね、櫂斗……ムリなこと言って……」 「……」 「やっぱり……深景、ダメなコだよね……ワガママだし、おバカだし……ピアノばっか弾いてて、友達いないし……どうしようもないよね……」  項垂れる深景……どんよりと、落ち込んでいる。 「違うって!」 「……!?」  急に大声を出すオレに、深景はビクッと、身を震わせ、オレのほうを見る。  彼女の視線と、オレの視線が、鏡を通して絡み合う。 「ダメなのは、オレのほうだよ! 深景はぜんぜんダメじゃねえよ」 「櫂斗……」 「深景は、何も悪くねえよ……」  ピアノが弾けないオレ……まだ紗菜のことを忘れられないなんて、ホント情けない。  ただの失恋なら、まだ立ち直れる。  けど、オレが失ったのは、ピアノそのものだ。  オレのことを気づかい、自分を責める深景。  そんな彼女を、受け入れることができないオレ。  ホントに情けない。  振りきるように鏡から離れ、重い足取りで、音楽室をあとにした。  せっかく、逢えたのに……あれだけ、逢いたいと思った彼女に出逢えたのに……。  夢であろうとなかろうと、結果は同じ……。  つくづく、恋愛に向いてない体質なんだろうな。  オレって……。
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