プロローグ

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 この日、音楽室内は、空調も効いておらず、室内温度は30℃を超えていた。  室内に響き渡るは、ピアノの音色。  曲は、モーツァルトの『トルコ行進曲』。  演奏者は、この学校の女子生徒、糸川深景。  汗だくの彼女、一心不乱に鍵盤を叩いている。  流れ落ちる汗を、拭うことすらしない。  速いテンポの曲を、身体全体を使い、流れるように弾きこなしている。  そんな彼女の姿を、隣の大鏡が映している。  まるで、そのすべてを記録するかのように。  その、彼女の指先の動きが、突然止まった。  同時にピアノの音色も消え去る。  突如、胸を押さえ、苦しみだす彼女。  だが、それも束の間……  意識を失い、ピアノの鍵盤の上に倒れ込む。  耳をつんざく、不協和音。  その異変に気づく者は、だれもいなかった。
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