ありふれた別離

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「紗菜……」  行きかけた、彼女の足を止める。 「……ん?」 「オレたちって、なんだったんだ?」 「忘れたほうがいいよ、あたしのことなんか」 「……」 「櫂斗、カッコいいし、ピアノ弾けるし……ぜんぜん大丈夫だよ」 「何がだよ」  さすがに、イラっとくる彼女の一言。 「絶対に、新しい恋、みつけられるから」  笑いかける、紗菜。  オレ、あんたのために、何十回ピアノ弾いたと思ってんの?  苦手な曲も、あんたのご希望どおりに、弾いたんだけど……。  音大生の今カレのほうが、ピアノ巧いってさ……ヒドくね? 『モウ、アナタノピアノハ、キクニタエナイ』  そう言われてるのと同じだろ? 「じゃね♪ 櫂斗」  明るい笑顔で、オレに手を振る紗菜……足早に、その場を立ち去っていく。  それを止められない、オレ。
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