ありふれた別離

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 『忘れたほうがいいよ……』  そのとおりかもしれない、  何もかも、なかったことにしたほうが、いいのかもしれない。  そうしなければ、とても前に向かって歩けそうにない。過去にばかり縛られ、時間ばかりが虚しく過ぎていく……そんなのはイヤだ。  だから、その日を境に、オレは十年近く続けていたピアノを辞めた。  紗菜とは、同じ高校の同じクラスだったから、別離れたあとも顔を合わせたが、会話もなく、お互い淡々としていた。  周りからはあれこれ詮索されたが、適当に受け流す。時間が過ぎれば、興味もなくなるだろう。  けど……紗菜の姿を見るたびに、忘れたはずの感情が、また心に宿ってしまう。  忘れたいのに、それができないジレンマ。  そんな、最中……父が、会社をリストラされた。
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