6人が本棚に入れています
本棚に追加
『忘れたほうがいいよ……』
そのとおりかもしれない、
何もかも、なかったことにしたほうが、いいのかもしれない。
そうしなければ、とても前に向かって歩けそうにない。過去にばかり縛られ、時間ばかりが虚しく過ぎていく……そんなのはイヤだ。
だから、その日を境に、オレは十年近く続けていたピアノを辞めた。
紗菜とは、同じ高校の同じクラスだったから、別離れたあとも顔を合わせたが、会話もなく、お互い淡々としていた。
周りからはあれこれ詮索されたが、適当に受け流す。時間が過ぎれば、興味もなくなるだろう。
けど……紗菜の姿を見るたびに、忘れたはずの感情が、また心に宿ってしまう。
忘れたいのに、それができないジレンマ。
そんな、最中……父が、会社をリストラされた。
最初のコメントを投稿しよう!