もしミステリ作家が犯罪者になったら

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        【2】  「私に考えがあるの」  懐中電灯と銃を同時に構え、突入した廃ビル内を歩きながら、私は朔ちゃんとかず刑事に提案をする。  「何? ぐるにゃん」  朔ちゃんも銃を構えながら、私の背中から訊ねて来る。 フランス警察での勤務を終えてから日本に一時帰国した朔ちゃんは、銃を構える姿も様になっている。 私も負けてはいられないけど。  「彼は、本市平次は、必ず何か仕掛けて来る」  本市平次は所謂ベタと言うものを徹底して避ける習性を持つ作家だ。直球は投げない投手。それは、彼の執筆するミステリ小説が如実に物語っている。  「罠って事ですか?」  かず刑事が質問し、「『ホームアローン』や『ソウ』みたいに?」朔ちゃんが続く。  三名の人質を総動員させれば出来なくも無いが、尤もこんな廃ビルでは電気も空調もない、加えて物理的な罠を用意する猶予も無いだろう。 然し、私が警戒しているのは心理的な、先入観を逆手にとった罠の方だ。  「どっちも外れね。心理トリックを罠として使ってくると思うのよ」
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