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  佐内蒼生は、グラスを磨いていた。 午前二時を回った店内にはいつも通りの面々。彼の大学時代からの友人たちの姿がまばらに散っている。 皆映画鑑賞同好会の後輩に当たるのだが、それでも友人、友人以上の存在だと呼んで差し支えなかった。 一縷の女性らしい感性は彼に新しい視野を与えたし、雪文の人懐っこさは自分には無いモノだと彼は感じていた。嘉乃の慎ましさは微笑ましくも痛々しくもあり、朱莉の妹の様な愛らしさは誰より蒼生の心を癒した。 そしてこの場には居ない二人、聖と香織。社会人になって数年が経つ今も、七人の友情は変わらない。 そう思っていた。きっとこの感覚を抱いているのは蒼生だけではないだろう。どうも、保ってきた均衡が変わりつつある。 変化は歓迎するべきだと思っていた。けれど想定外の変化だった。――一縷と雪文の距離だ。 水と油、とまではいかないにしても、それ程近い様には感じない二人だった。 論理と積み重ねを愛し複数人の中でも声の大きな雪文と、感覚と直感が鋭いものの決して前に出る事の無い一縷と。 雪文が先陣を切り、一縷が他の面々をまとめ上げ、そして蒼生が微調整し、他の面々がついてくる。 そんな構図が出来上がっていた。それが、今はどうだ。 一縷が一歩下がる事で二人の間に衝突こそなかった。けれど、距離が近くなるような、そんな出来ごとも無かったはずだ。蒼生の見ていた限り。 「――男と女ってヤツかねぇ」 「ん?」 「なんすか、そうさん」 「なんでもないよ。ほれ、食え」 なんでも雪文と嘉乃でまたダーツをするだとかで、嘉乃に腹ごしらえの為の軽いつまみを頼まれた。 水菜とアボカドの簡単なサラダを出してやれば、隣に座る朱莉にもそれを勧めながらニコニコと美味しそうにそれを頬張る嘉乃。 心中穏やかで無い癖に、よくまぁこんな仮面を張りつけられるモンだと感心すら覚える。出会った頃、高校時代からの悪癖だとはいえ。 一縷、雪文、嘉乃。七人の中心に居続けた彼らがどう変わるか、どんな関係を持ち続けるか。どんな未来を歩いてゆくのか。 楽しみでありながら、不安定な彼らに抱く気持ちは決して単純な物ではなかった。そんな自分自身の変化にも、思いを馳せて。 ――まあ、お兄さんは見守っててやりますよ。  
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