第1章

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「恭平。明日ヒマ?」 学校が終わり駅まで歩いていると、広田が思い出したように話しかけて来る。 明日は土曜日だ。 もしかして、デート…とか、そういうのか? 微かに頬を染めながら、それに気付かれないように俯きつつ返事をする。 「あぁ、ヒマだけど。なんで?」 「バイトしねぇ?」 デートじゃねぇのかよ。 一人妄想していた自分が恥ずかしい。 別の意味で頬を赤く染めながら、怪訝な顔で広田を見つめる。 「何のバイト?」 「知り合いのおっちゃんが喫茶店経営しててさ、明日から二カ月のあいだ頼まれた日に手伝う事になっててな」 またバイトすんのかよ。 本当好きだな、お前。 きっと、その知り合いのおっちゃんという人も、どこぞのバイトを通じて知り合ったんだろう。 広田の交友関係はそんな風にして広がり、とても幅が広い。 「で、なんで俺が?」 「来る予定だった奴が怪我して無理になっちまってさ。 急遽人手が足りなくなったってわけ」 なるほどね。 別に、暇だしいいけど。 それに。 広田と一緒にバイトをするのは、初めての事だから興味もあった。 今までは、広田と一緒にいるのが辛くて、同じバイトなんて考えもしなかったけどさ。 付き合っている今は、そういうのもイイかもしれない。 「いいよ、別に」 俺がそう答えると、広田は嬉しそうに笑う。 もしかしたら、広田も俺と一緒にバイトするのが楽しみなのかな、なんて。 考えたらまた頬が熱くなるものだから、慌てて視線を逸らした。
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