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そこは大陸の端のほうに位置していた。
海岸線沿いにある小さな集落。
肥沃な土地に、豊かな海に囲まれた小さな小さな楽園だ。
国の首都はほど遠く、辺境と言われても仕方のないくらいに中央からは交通の便は悪い。
それでも、ほぼ100%自給自足でまかなわれているこの地は、皆が穏やかにそしてゆっくりと暮らしていた。
所々、周辺に村が点在している。
それら村々との交流は盛んで、争いもなく穏やかに共存していた。
また、人々の生活を脅かす存在である魔物がこの地には少ないというのも、住む人間達に取ってみれば楽園と言える。
そんな村の外れ、小高い丘の中腹に小さな小屋があった。
すぐそばは海へと通じる崖が存在し、緩やかな坂道を下っていけば、すぐに村へと通じる。
簡素な作りの小屋、その隣には緑豊かな畑が広がっていた。
その小屋の扉が何の前触れもなく開いた。
「リーア? リーア! いないの?」
杖をついた妙齢の女性が出てきた。
白髪が目立つ銀髪を後ろで一つに縛っている。
「はぁ、あの子は目を離すとすぐどこかにいくんだから……」
左手で黒縁のメガネを押し上げ、深々とため息を漏らす。
「アレス? アレスはいないの?」
女性の声に崖側でぼんやりと海を眺めていた亜麻色の髪をした少年が振り返った。
「ママ? どうしたの」
ゆっくりと立ち上がり小走りに母の元へと向かった。
「あぁ、アレスはいるのね。お姉ちゃんは何処に行ったのか知らない?」
「え? リーア? ん~、さっきまで近くにいたと思ったけど?」
「あらあら、困った子ね。あの子には、そのうち首に鎖でもつないどかないといけないかしら」
眉間にしわを寄せ、本当に母はそう考えていた。
しかし、アレスはそれを聞いて首を傾げる。
「ん~、リーアならそんなの簡単に引きちぎって、また森の中に遊びにいくんじゃない?」
「それは言えてるかもね。あら? アレス? 貴方、あの子が森に行ってるって言ったわね」
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