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ハンカチでレンズを拭くと三枝さんは、再び眼鏡をかけ僕を見つめていた。
光を帯びて、僕を試すような眼差しだった。
何故か、よくわからない。
「じゃ、10分たちましたね」
膝を伸ばし、立ち上った三枝さんが非常階段を下り始めた。僕は距離を縮めてあとを追った。
エレベーターホールに差し掛かった所で背広の裾を何とか掴んだ。
三枝さんが面倒くさそうに首を向けた。
「何ですか? 私にまだ用でもあるんですか」
「ええ」
僕は、そういうと膝をおり、床に頭を着けた。
三枝さんが、珍しく目を丸くしていた。
僕の格好を見て多少は驚いたのだろう。
「何の真似です。君は、プライドが高い。土下座なんてする子じゃない」
呆れたような三枝さんの言い方に僕は自嘲ぎみに笑うと腰をおったままだった。
「自分でもわかりません。
でもね、一哉さんは僕との未来を考えてくれているんです。三枝さんの協力があっても、本当の所二見社長のかなわないかもしれないってわかっています
だから、貴方に頼みたいんです」
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