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「僕はすぐそこの抜刀道場の門下生。真剣はこのような場面のためにあると思っています」
男子を見る。
近い……。
近くで見ると……相当な美男子だ。
「ちょっと道着で飛び出してしまいました……僕は耳が人一倍良いので、こういうの察知しちゃうんですよね」
「あなた、名前は?」
「チクろうって思ってます?」
「え?ううん!私を守ってくれたから……その……チクるなんて絶対にしないし!!」
「一十瀬宗司(ひとせ そうじ)。16歳。あなたは?」
「夏野葵。……一十瀬君は……これからどうするの?真剣持ち歩いていたら見つかってしまうでしょう?」
「そうなんですよ。だから……僕と共犯者になってください」
「……え……」
一十瀬君は無邪気に微笑んだ。
「僕の真剣をあなたに預けます。僕は何事も無かったように家に帰りますから」
「ちょ……ちょっと待って!私が真剣持って歩いていたら怪しいじゃない!」
「あなたは見た感じ、この近くに住んでいそうですよね。だから今からすぐにダッシュでお帰りください」
「……えぇっ……?」
「僕とあなたとの秘め事です。守れますよね?」
一十瀬君が私に顔を近寄せ、不敵に微笑む。
「……殺人したわけじゃないし私を守ってくれたから……今回だけ……うん……いいよ。見逃してあげる」
「くすっ。危なくなったらその刀で身を守ってくださいね。僕、先に行ってもいいですか?」
「うん」
「狭いですね」
「……!!」
一十瀬君が私と壁の間を通ろうとして至近距離が更に至近距離になる。
一十瀬君の胸と私の胸が触れる。
「いしょっと……」
私と壁の間を通り抜けた一十瀬君は、
「では、失礼しますね」
と私に会釈して路地裏から表通りに去って行った。
「……」
この刀、もう取りに来るつもり無いのかな……。
別に真剣持っていたりして……。
私の住所訊かなかったし、もう取りに来るつもり無いんだろうな……。
って事は、もう会う事も無い……か……。
真剣……どうしよ……。
私の部屋の箪笥にでもしまっておこうかな……。
空がもう少し暗くなるのを待って、
暗くなった頃、真剣を庇うように持ちながら急ぎ足でアパートへ帰った。
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