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イタドリの葉が、大きなハートの形に見えて、それを一枚、二枚、と数えてみると、トランプ遊びがしたくなった。
きっと、ポーカーが良いに違いない。
それならば、沢山集めたハートの手札から、いろんな役を組んでみせただろうに。
そんなことを思いながら、私は葉陰を踏んで、湿っぽい黒土の斜面を裸足で歩いた。
イタドリの赤茶げた斑もようの茎を縫って歩き、四肢を黒土の斜面に押し付けて、肩を高くした。
鼻先を天に向け、夏の香りを深く嗅いだ。
目を閉じても、感じられる光がある。
それを追い求めるうちに、私は耳をピンと立て、影の囁きを隈無く聴いた。
見上げれば、イタドリの葉は空を隙間なく埋めており、重ねた葉の天井から、幽かに漏れ出る丸い光は、まるで昼真に瞬く星のようだ。
庭先の柿の木からは、蝉の鳴く声が聞こえる。
さらに耳を澄ませば、私の天に掲げる三角のアンテナは、立派に耳の役割を果たし、藪の中を掻き分けて震える、私の名前を聞き分けた。
嗄れた声が風に乗り「エミや、おいで」と言っていた。
本当はもう少しだけ、葉の天井に映る、真昼のプラネタリウムを鑑賞していたかったのだけれども、それをさせない理由が首もとで揺れた。
ピンク色の合革の首輪が、家猫であることを強く主張し、真鍮の鈴の音が、私を家路へと導いてくれた。
庭のはずれの、山裾に面したイタドリの斜面で、葉の天井に星を見る、仄かに青みがかった短い毛並みの黒猫、それが私。
四歳になる雌猫で、名前をエミという。
飼い主は、佐藤商店のお婆さんだ。
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