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いつも崖のふちを、背にして生きているようだと、物心ついた時にはそう思うようになっていた。生きている意味だとか、そんなことを至極、真面目に考えていていた。
母親はクズだった。父親はカスだった。金に群がり、欲に縋る彼らは人でなしなのだ。
獅子心中の虫という言葉を知った時、俺は両親を思い浮かべた、金持ちの親のすねにかじり付き他人の告げ口を囁き合う、両親はまるで毒虫そのものだ。その身体から吹き出す毒で自分達も、周りにいる連中すらも腐らせるのだ。俺はそんな人間になったりはしない、背後にひろがる奈落に落ちれば俺は両親と同じようになるだろう。だから、崖を背にして生きている気分だった。落ちれば死ぬ。きっと死んだのと同じになる。
彼らは俺を愛していないだろう。育てているのは自分達の欲を満たすための道具を作っているだけなのだ。だから、俺は獅子になった。道具なんかじゃない確固たる俺が、藤上祐介(フジガミ、ユウスケ)のための人生を歩むんだ。
どうして、こんなことになってしまったんだろう?
ナイフの切っ先が揺れる、もう、何度も振り下ろしてきたはずなのに俺は今更になって迷っている、俺の目の前には腹部から真っ赤な血を吹き出して倒れている。その傍らには泣きじゃくる幼い女の子がいてーーーー、
子供の頃から幸せな家庭というやつに憧れた。街中で幸せそうに笑う親子を見ると俺も微笑ましい気持ちになった。もちろん、俺には無関係だし、名前も知らない相手だとしたもだ。その日、俺は家族連れを遠くから見かけた。親にたぶん、姉妹だろうか、買い物袋を一つずつ抱えて彼女達は談笑しながら俺の隣を通り過ぎていく。同い年くらいの女の子(おそらく姉)と目があった、彼女は俺を見ると微笑んで、
「こんにちは、藤上くん」
「え、あ、ああ、こんにちは」
と見ず知らずの彼女から名前を呼ばれたことに驚きながらも俺も答えた。
「あれ? 藤上くん、もしかして、誰だっけ、こいつって顔してる?」
彼女は親と妹に先に帰っていてと一言、断ってからそう言った。確かに図星だけれど、こんな奴は知り合いはいないーーはず、ど忘れしてない限りはだ。
「あ、いや、」
「藤上くん、藤上祐介くん。サボりの常連の問題児、髪の毛は金髪でヤンキーな藤上祐介くん」
「俺の個人情報!?」
「いやいや、同じクラスなんだから名前くらい知ってるでしょ」
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