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知らんと言いそうになった。それに今時、髪の毛が金髪でヤンキーだなんて偏見もいいところだ。まぁ、こいつは俺と同じ学校に通っているということか、俺はサボっているが、
「失礼な奴だな、こういうときは相手に名前を聞く前に自分が名乗るのがいいんじゃないか」
なんて薄っぺらい嘘をついた。小さな虚栄心で自分を守るための方便だった。どんなときでも弱い自分をさらけ出したりはしないのだ。
「アハハハ、そうだね、うん、じゃあ、あらためまして私は、山根だよ。山根真結(ヤマネ、マユ)、これでいいかな」
山根真結、やっぱり聞き覚えのない名前だ。クラスの連中どころか、担任の名前すらうろ覚えの俺にはどうでもいいことだったが、山根はいつまでもそこにいた。
「いつまでそこにいるんだよ。お前、帰る途中なんだろ。親を心配させんじゃない」
と言うと山根はクスクスと笑い出した。
「藤上くんに親の心配されるなんて思ってなかった。ヤンキーなのにね。あれかな、雨の中、泣いている子猫をみつけてそっと学ランに包んでちたいな?」
「なんだよ、その偏見は、つーか、俺はヤンキーなんかじゃない。他の奴らがどう思っているか知らないが自分でそう名乗ったことはない」
「喧嘩なんかするのに?」
「ふっかけてくるやつらを返り討ちにしただけだ」
「頭、金髪なのに?」
「それとこれとは、関係ない」
この金髪は意思表示のようなものだ。 獅子というか、自分の意思表明みたいなものだと言っても山根は笑うだけだろうから適当にごまかした。
「つまりは藤上くんは、一匹狼なの?」
「呼び名を変えればいいってもんじゃない」
「だね。でも、かっこよくない、一匹狼って男らしくって」
「イタい発言してる中二病にされておしまいだ」
「夢がないなぁー。じゃあ、ライオン? 獅子みたいな」
いたいところをついてくる。確かに悪くないとは思っていた。肯定はできなかったがさっさと帰るように促した。
「だとしてもだ。本当に物騒なんだからさっさと帰れ。最近はここらへんでもおかしな事件が起こっているだろ」
「ん、そうだね。藤上くんも早く帰ってね」
と山根が返事をして帰って行く。後ろ姿を見ながら小さく手を振った。
「ハッハッハッ、どうなってんだょお、俺が何かしたのかよぉ」
中年男が肩を抑えながら言う。ドクドクと流れていく血が袖を伝う。
「告げ口されたんだよ。お前のことを」
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