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 私の表情は向こうから見えないし、新人くんの表情もうかがえない。しかし彼がびくりと肩を跳ねさせたのはわかった。 「死神だって腕は二本だ。つかめないことだってある」  ことばにしてしまってから、こんなもの気休めにもならないと内心で自嘲する。 「…………っ」  かすかにもれ聞こえてきた嗚咽に私の視線は自らの放った攻撃の爪痕に釘づけになる。けっして振り返ってはいけないだろうと思う。彼の表情をこの目に認めてしまえば私だって封じ込めている感情のたがが外れてしまうだろう。  遠い記憶のなかのひとつをふと思い出す。私が初めて『救えなかった』記憶。私のなかでのそれは数多の任務をこなして来たうちのひとつでしかない。  しかし、最初の仕事でこれはこたえるだろう。  だから私はそのままでいた。彼の嗚咽がやむまで。彼の呼吸が整うまで。彼が声を取りもどすまで。私はずっと大きなくぼみを眺めていた。 「すみません、キナさん」  聞こえてきた声に立ちあがると尻を払った。身体ごと振り返って新人くんのぼうっとした表情に笑みを向けた。 「ほれ、もういっこいたろ。そいつをさがすぞ」  新人くんはふたたび顔をくしゃくしゃにして、それでも涙を押し留めて無理矢理に笑う。 「僕、救いますからっ! 絶対にっ!」  ああくそ、若い、若いぞ新人くん。  ほんの少し、そうためらいなく口にできる彼のタマシイをうらやましく思う。
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