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 ――つづいて訪れた民家の戸を常識的に手で引いて開けることにしたのは何も新人くんの目があったからではない。気配があったからだ。  近づいてひしひしと伝うよどんだ空気に頬がひきつる。さっき、いるかいないか戸を開けるまで判断ができなかった自分がマヌケとしか思えなくなるほどにばればれだった。  新人くんに鎌を構えさせる。袈裟に斬りかかる構えを取らせた。 「遠慮はするなよ、小屋ごとぶった斬るつもりでやれ」 「ええ!? ――うん、はい、わかりました」 「よろしい」  戸から二歩ほど離れて立たせ、いっぽうで私はボロい外壁に背を預け、戸に手をかける。  斜向かいの新人くんがごくりと唾液を飲みこむ音がして、それを合図に私は戸を引いた。  新人くんが目を凝らす、と大型犬サイズの黒いもやのカタマリがその顔面に跳びついた。 「わばばばばばばばば!」  おどろいたのか、わめきながら刃を振りまわす。刃圧が撒き散らされ、地面に大縄でも叩きつけたみたいな跡が次々とできあがる。 「落ち着けってーのー」  私にまで届きそうな刃の圧力をうちわであおぐみたいに鎌を振って散らしながら冷静になれとアドバイスするが、やはり聴こえているかはあやしい。  いまもなお新人くんの顔面にまとわりついているそれは、ひと言で表せば黒い綿菓子みたいで、もともと暗いこの場所にあってはまるで闇をこごらせたみたいだった。
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