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ともあれこのままではどうにもならない、私は刃圧をかわしながら近づき、進入した一刀一足の間合いからさらに一歩、鎌は左わきに刃を背後にし挟み、柄の石突をライフルの銃口に見立て構えるように保持しつつ、踏み込んで。
振るわれる刃を避けながら顔面にへばりつく黒いもやを石突でかちあげた。
上空に高く飛翔する黒いカタマリ。顔面から消えた感触に、動きを停止し目をひらく新人くんに、上を指さして示す。私はそこから飛び退いた。
地上から離れ飴玉サイズに見えるカタマリはそのシルエットの大きさを取り戻していく。落下してくる。正確に真上に打ち上げたから落下地点は発射地点であり、
そこにはすでに死神がいる。
「ひとおもいに――」
私の声にあわてふためくかと思ったが、そんなことはない。新人くんは真一文字に結んだ口を一瞬笑みのかたちに歪めると頭上を見あげる。
夜空の黒とは質のちがう黒を瞳に映しながら――そうしてこれからながい、とてもながい時間、関わることになるそれらの最初のひとつを見据えた。
「――ぶった斬れ!」
死神は風を産み落とす。
風の産声にまぎれて聴こえた断末魔の声は、早送りしたカセットテープの音声めいている。
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