飛びたかったのだ、落ちたいのではない。

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飛びたいのだ。飛びたいのだと少女は繰り返す。夢を見ていた気もしたかも、うん。そうじゃないかな。あれ。どうだろう。家に帰って、学生服のまま家の中を詮索した。紙を見付ける。新聞紙だけど悪くない筈だ。飛びたいのだ。鋏で鋏んで、新聞紙を切断する。 少女が一対の翼を切り終えるのに要した時間は一時間程度だ。母が帰って来たから、少女はそれとなく背中にガムテープで貼り付けた翼を見せた。母は首を傾げていたが、少女は飛びたいのだと繰り返した。馬鹿な事を言い出したと母は晩御飯を作り始めた。少女の住む家と言うのは十階建てのマンションである。少女は飛びたいのだと、ベランダに向かう。母が気付く。 飛びたいのだ。空に飛びたいのだ。胸元より上の柵に手を置いて、足を引っ掛け上がる。体勢を崩しながらなんとか柵の上に立てた。素足で金属の柵を踏み、若干の痛みと母の奇声を背に少女は飛びたいのだと飛び立った。しかしやはり、当たり前にも新聞紙では駄目であった。少女は、コンクリートに身体を叩き付けた。十階に住んでいたので、十階から飛べなかったのでへちゃげたが、少女は飛びたいのだ。落ちたいのではない。 少女は、帰宅した。母はいなかった。家の中を探り、硬い紙を見付けた。忽ちに一対の翼を鋏で鋏んで作ると、背にセロハンテープで貼り付けた。これなら大丈夫。飛べるだろうとベランダに出て、柵を乗り越えた。どうやら駄目なようだ。少女は肉塊になった。繰り返すが、飛びたいのだ、落ちたいのではない。
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