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「ほえ……?」
っと口を突いて出た世にも間抜けな私の声をうち消し、
「佐々木っ!」
冷えた空気を裂いて響き渡ったのは、今まで聞いたことがないような、伊藤君の切迫した叫び声。
何が起こっているのか理解する間もなく、誰かに右腕を掴まれ、もの凄い力で引かれた。
立っていられない位に傾く体。
反転する世界。
鳴り響く、耳をつんざくばかりのクラクションの音と、間髪入れずに上がったブレーキ音に、ヒヤリと背筋を薄氷が滑り落ちる。
まるで別の世界の出来事のように、全てがスローモーション。
夕焼けの赤と紺碧のマーブル模様が万華鏡にみたいに、沈んでいく視界を掠めていく。
そして、そのまま私は、地面に転がるように倒れ込んだ。
「バカッ! 何やってるんだっ!? 死ぬとこだぞ!!」
でも、私を襲ってきたのは、冷たいコンクリートの洗礼じゃなく、伊藤君の怒声とクッションの効いたやけに温かい地面だった。
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