記憶の海の底へ

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「…なんか今日は酔いが回るの早いみたい。」 お酒にのまれたことなんてない私が 微酔いの感覚がある。 「七絵ちゃんて…まだ実家なの?」 飲み干すグラス。 すぐに手をあげて店員を呼んでいる。 「あんたタバコは?」 「とっくに止めました。 七絵ちゃんキライだったでしょ?」 へぇあんなに吸ってたのにね。 さぁて まだまだ電車あるから 私もおかわりしようかな。 「ウチの方が近いから泊まればいいじゃん。」 ケラケラ笑って注文をしているけど。 そんな訳に…いかないわよ。 「スキー合宿の時も七絵ちゃんは 全然酔ってなかったもんね。」 あぁ そこ触れる? 「先生達はみんな大宴会。 あんまり賑やかだからそっと覗いて 隙を狙って1本吸いにロッジのデッキに 出てたのに七絵ちゃんに見つかった。」 したっぱは見廻りがあったんだよ。 でも私はデッキに出る前に公衆電話で 誰かと話してるあんたを見つけてたの。 だから冗談でからかっただけなのに。 「彼女に電話ですかぁ? 私って目標があるくせに。」 なんであんなこと言ったんだろう。 恥ずかしい。 でもあんたは吸い始めたタバコを雪に埋めて また公衆電話をかけにいった。 しばらくして戻ってくると。 「別れてきた。 特に本気じゃなかったし。」 えっ? 嘘でしょ。 私が別れさせちゃったみたいじゃない。 「あの時から俺ね 高校時代は完璧に七絵ちゃん一筋。 懐かしいな。」 スムーズな記憶の話の波が 心地よくふわふわした頭に伝わってくる。 「ちょっとお手洗い借りてくる。」 七絵の姿が見えなくなった。 刹那。 和哉の表情が一瞬 変貌した。 メモリートラップ。 酔い。 じゃないんだよなぁ 先生。 そろそろ 仕上げのドラッグタイムかな。 和哉はジッポライターの蓋を カチン。 カチン。 と鳴らしながら ニヤリと笑みを浮かべた。
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