記憶の海の底へ

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「あぁダメだ 完全に酔ってるみたい。」 七絵はグラスのアルコールを飲み干した。 大きな瞳は虚ろなまま 瞬きを繰り返している。 「七絵ちゃん帰れるの?」 何回かに一回は辛うじて返事がかえる。 いい具合だね。 完全に意識が抜けてるやつは つまらない。 もう少しで海の底へ着くよ。 メモリートラップ完了だ。 …先生。 「…あんた覚えてる? 私にくれた ラブレターの最後のとこ。」 ふらふらと肩を寄せ歩きながら 二人は和哉の家にたどり着いた。 「停学の見舞いの時とは 家の中が変わったでしょ?」 和哉の問いに答えることなく 七絵は木の椅子に座ったままで 眠りについた。 いらっしゃい。 腕時計のようなストップウォッチを見ながら 和哉はまたニヤリと笑みを浮かべた。 完璧な経過だよ。 靴を脱がせて 髪の毛から頬をそっとなぞる。 触れる指に たまにピクンと反応する肢体。 たまらないね。 では。 僕のコレクションボックスに 入りましょうか。 部屋の中央に不自然に繋がった 天井から床まで伸びるレース生地のカーテン。 そのカーテンを開けると和哉の部屋は 一変する。 大きなアクリル製のボックスが3つあった。 椅子に腰を掛けた大人が そのまま楽に収まるくらいの大きなサイズ。 透明なボックスの中は 冷凍庫のような仕組みで ナマ物が腐敗することは ない。 足元から照らすブルーのライトに 溶けていくドライアイスのような 泡音と白い渦。 和哉は幅の広い包帯のような布を 大きなタライの水にしばらく浸ける。 ボックスの脇に置かれた アルコールとチーズをかじり ピピピ…。 というタイマー音と共に 縫製用の裁断バサミで七絵の服を すべて切り除いていく。 無表情のまま その身体に触れることはなく 爪先から布を巻いていく。 「覚えてるよ ラブレターの最後。」 鼻唄を時折呟きながら 巻かれていく布は 乾くと石膏になっていく。 身体の凹凸のままに 優しく 柔かに 全身を綺麗にくるんだ。 唇だけ布を巻かず 生かしたままで。 そしてアクリル製のボックスへ 椅子に座ったままの七絵を移動する。 ワイヤレスのリモコンでスイッチを入れると 照明と白い冷気が作動しだした。 「とてもsweetな夜だったよ。 My Angel DooL。」
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