記憶の海の淵へ

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「すいません。 人違いでしたらごめんなさいね。」 ばか。 仁美。 何してるのよ。 私が少し記憶の海に佇んでいる間に あの男の人に直接話しかけてるなんて。 岩井…。 【岩井和哉だったら。】 どうするのよ。 「七絵?どうしたの?」 孝子はそわそわしている 私に【気付いている。】 「高校生の時、青陵に通ってませんでしたか?」 孝子にも 仁美にも 【伝えていないこと】がある。 「七絵、大丈夫?」 ラブレター…いや もらった手紙の 【返事】を渡したこと。 「はい。 青陵でしたけど。 同級生の方ですか?」 たくさんあるんだよ。 他の子と違って。 岩井…とは。 「もしかして、岩井くん?」 仁美は別の高校へ赴任したから 岩井…と 面識があるとすれば 教育実習の3ヶ月。 あと 岩井たちが高3の時の文化祭。 有志バンドでトリを飾る前に 控え室前の廊下でばったりあった時。 くらいだよね。 「ねえ、七絵。 やっばり岩井だったよ。 岩井…えっと下の名前…。」 ばったり会ったというのは 実は【嘘】で。 出番前に緊張しぃのあいつに 発破をかけにいったんだ。 「…和哉。」 戻ってきた仁美の後ろから こっちに向かって歩いてくる。 伸びると毛先がクルクルしちゃう 赤い髪の毛の少年。 もしかして 手紙の返事のこと 覚えてるのかな。 いくつになったんだろう。 もう 少年じゃないや。 「驚きだよ。 10年前くらいに大きな事故やって 記憶が大分無いらしいよ。」 【えっ?】 「日記を見直して その中から記憶を辿って 時々ここにも来るんだって。」 日記を【辿る?】 そんなことって。 あの頃の私は… 【少し優越感が】あったんだ。 「七絵のこと話したら。 日記にたくさん出てきたって。」 そうなんだ。 何を書いていたんだろう。 女子生徒が圧倒的に多かった高校で 結構人気があった存在なのに 誰と付き合うこともなく 私だけを 【見ていた】よね。 「こんばんは。 七絵ちゃん、なの?」
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