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孝子と仁美は
せっかくだから記憶の捜索
手伝ってあげなよ。
なんて言って
二人で行ってしまった。
「あんた…久しぶり…だね。」
ちょい待って
そりゃそうだろよ。
なんだか
どうしよう。
ありきたりな挨拶しちゃったじゃない。
「あんた…いくつになったの?」
あんた…なんて言ってていいのかな
もう
生徒と教師の間柄じゃないのに。
でも
渾名みたいにずっと呼んでいたから。
改まるのも変だよね。
「先生の年から7つ引いてよ。」
先生って。
もう
教職してないのに。
懐かしい響きだけど。
あれ?
少し身長伸びたみたい。
「…へ?…30になったの?」
なんか私。
間が悪い。
「ってことは七絵ちゃん37才になったの?
あんまり変わらないね。」
はっきり言うわね失礼なこと
でも柔らかい声のトーンはそのまま。
…。
えっ?
私のこと映像で覚えてるの?
驚いて顔を見上げると
鞄から取り出した写真をみていた。
「ちょっと何の写真みてんのよ。」
1枚は高2の時のスキー合宿。
もう1枚は。
何これ?
何の写真?
「これは夏の数学の補講を受けていた時
後ろから宏樹が撮ってたんだよ。」
誰もいない教室で二人だけ。
写した角度が悪いから
寄り添って教科書開いてるように
見えるじゃない。
「このあとキスしたっけ?」
無邪気な笑顔でみないでよ。
「あんた何をバカなことを…
したわけないでしょっ!」
ちょっと強めに背中を叩いて
私たちも歩きだした。
「その写真宝物にしてたんだ。」
西陽に溶け込みそうな二人
逆光で表情はまったくみえないけど
岩井の高い鼻先と
私の小さな鼻先が
少し触れているような
シルエット。
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