記憶の海の中へ

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「…そうなんだ…大変だったね。」 あれは教育実習が終わって 赴任1年目だから 高2になってすぐの頃かな。 授業前の廊下で起きた ケンカ。 割れて飛び散ったドアのガラス。 その上に殴られ倒れていた相手に まだ怒鳴り散らしていた あんたの腕を抱えて引きずるように 職員室まで連れてった。 あんたは反省するどころか悪態ついて。 大きな声でバカなこと言ったよね。 「七絵ちゃん職員室に来るまで ずっと胸に腕が当たってたよん。」 ばか。 私は… 必死だったんだから。 結局は反省の色なし。 2週間の停学。 その停学中に授業の内容の写しを 何回か自宅へ持っていったのも 私だった。 誰もいない家 開けっ放しのカギ 自分の部屋でタバコをくわえて ベッドに横になり 「七絵ちゃん来てくれたんだっ!」 「仕事ですから。」 「仕事でも嬉しい。停学も悪くないよ。」 煙で臭くなってる窓を換気させて タバコも口から奪って 流しに捨てた。 なんだかあの頃から 孤独じゃないの? 「ねぇ。 先生って呼んだらいい? それとも 七絵ちゃん…でいいの?」 もう先生じゃ ないからなぁ。 「高校時代の話を… たくさん教えて欲しいな。 日記もあるから事実になるよね。」 そんなこと言ったら 私は あんた…でいいのかなぁって 話になるじゃないの。 「ねぇなんて呼んだらいい?」 えっと。 どうしよう。 「どっちでもいいよあんたの好きな方で。」 「じゃぁ…両方。」 茶色い澄んだ瞳 ビル風に揺れる少し長めな襟足。 ニキビもなく綺麗な肌 岩井も 大人になったんだな。 「ここで思い出すことはないみたい。 でも今日っていう新しい記憶を刻めた。 七絵ちゃんと一緒に。」 何を言ってんだか。 秋めいてきた夕暮れ時から キラキラとネオンライトが空に映る涼しい夜の入り。 でも なんとなく もう少し話を …したいな。 「あんたお腹すいてないの? 食事でも行きますか?」
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