記憶の海の中へ

4/4
前へ
/13ページ
次へ
ちょっとちょっと。 はしゃぎ過ぎだし 抱きついて喜ぶのはNGだよ。 青陵高校の時も1度あった 高3のマラソン大会の中継点でだよ。 あんたは私を見つけてコースを少し外れて こっちに来たかと思えば いきなり抱きついてきて。 「七絵ちゃんもう無理だから棄権する。 俺さ足が良くなったばかりだから。 歩いて遠回りして一緒に帰ろっ。」 周りに数名いた先生達も 走っている男子生徒も女子生徒も みんなが見ていたんだから。 あんたは 私にメガホンで頭ひっぱたかれて 笑って走り去ったけど。 後から通りすぎる生徒達に どれだけ冷やかされたか 知らないでしょ。 でも あの時のデキの悪い弟の感覚とは 今は違う。 筋肉質の胸板に頭の上から全身を包まれ ほのかに香る甘い香。 「じゃぁどこ行こうか先生。」 だから 先生じゃないんだよなぁ。 「もう教員してないから やっぱり名前の方がいいかな。」 少しだけ ドキドキしたのは嘘じゃない。 「七絵ちゃん俺ね 本当は補講受けるために わざとテストで悪い点数とってたんだよ。」 それは?記憶なの それとも日記の記録? もう どっちでもいいか。 なんと…なくわかってたし。 補講をしていたのは夏。 夏休みの出勤担当日も 部活の後に教室へよるあんたを 少し 待っていた。 冬のスキー合宿に参加するには 成績が悪い生徒は対象外。 私が大学時代に国体に出ていたスキーヤーで 合宿の担当になっているってこと 担任があんたに話したって聞いたんだ。 秋からは真面目にテスト受けて 合宿に滑り込んだんだよね。 やればできるじゃないかって たくさん褒めたけど 一緒に雪山行きたいって 私も少し思い始めていた。 覚えてる? 夜更けのロッジでのこと。 あっ っていうことは。 そっか 彼女がいた時もあったんだ。 記憶って曖昧だな。 なんだか一緒に記憶の海の奥に のまれていきそうだよ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加