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「正解。おはよう」
夢か、幻か。
目の前で起こっていることが、とても現実だと認識できない。
ありえない。
何故、どうしてこうなった?
一人百面相をする私に、櫻井さんは「くっ」と笑うとゆっくりと立ち上がって冷蔵庫へ向かった。
「はい、水。これ飲んでまだ寝て」
私は、ぽかんと口を開けたまま、差し出されたペットボトルを無言で受けとる。
「勝手に家まで上がり込んでごめん。彼氏いるのに」
彼氏?
誰に彼氏がいるって?
言葉の意味を把握するまで数秒かかった。
そうだ。
自分でそう言ったんだっけ。
それで、櫻井さんには彼女がいない──。
「!?」
そうだ。
彼女がいないはずがない彼に、彼女がいない。
そんなことがあるのか。
あまりの予想外の出来事に頭が真っ白になって、飲めないお酒を大分飲んでしまった。
「あ、あの…それなんですけど…」
私は、何を言おうとしているのだろう。
ここで、あれは嘘でした。本当は彼氏なんていません。そんなことを言ってどうなるのだ?
そんなことを言ったら誤解されるたけだ。
「…いえ。どうしてうちに?」
なるべく冷静になろうと、小さく深呼吸をする。
記憶がないということがこんなにも恐ろしいもの
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