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また得意ではないお酒のせいで、足取りがおぼつかないが、それを悟られないように、しっかりと歩く。
「ほんとに、田村さん居てくれて助かったから。あの主任さん苦手。」
確かに、凄かった。
初対面は、キャリアウーマンという服を着たような素敵な女性に見えたが、櫻井さんを目の前にした途端に、ただの女になっていた。
あれは、同じ女でも引く。
「でも、櫻井さん終始にこやかだったじゃないですか。流石です。」
あの笑顔をされたら、誤解をされても仕方のないことのようにも思える。
「仕事だからね。あそこはお得意様だし。あ、そこ段差…」
「きゃ…!」
しっかりと歩いていたつもりだったが、言われたそばから小さな段差に躓き、ふらついた。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ、です!」
躓いたことと、アルコールのせいで一気に心拍数があがる。
それに、なんだこれは。
顔が上げられない。
私は櫻井さんの胸に抱き止められていた。
「やっぱり、送るよ。」
低音だけど、柔らかな声がすぐそばで聞こえる。
声までいいなんて、もはや反則だ。
耳まで真っ赤になっていることがわかるくらいに熱い。
それに、この香り。意識がどこかに持っていかれそうになる。
ぐるぐると目が回って、さらに酔いも回ってしまいそうだった。
「ご、ごめんなさい!ほんとにもう大丈夫なんで!お疲れさまでした!」
私は、両手を押し出して彼の身体から離れた。
そのまま、回れ右をして改札口へと駆け込む。
冗談じゃなく、心臓が口から出てきそうだ。
「田村さん!」
少し遠くで櫻井さんの声が聞こえたが、丁度停車した電車に飛び乗った。
だめだ。
だめだ、だめだ、だめだ!!
好きになっちゃ、だめなんだ。
何度も何度も心の中で呪文のように繰り返した。
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