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私はそんな期待を持ちつつ、肉じゃが口に運ぶ彼を凝視した。
ここは普通の1LKでダイニングはないので、ベッド脇を背に彼は座る。その前に小さめのローテーブル。そして、それを挟んで私が座っていた。
「何?食べにくいんだけど。」
「いや、何でもないです。箸の持ち方も完璧ですね…。」
どこかに弱い部分を見つけられれば、私も少しは優位に立てるのに、とガッカリする。
「何それ。面白いな、田村さんは。」
そう言って、ふわりと笑う。
“果夏”
昨日一度だけ呼ばれた声を思い出す。
「意外。料理上手いんだ。」
意外、は余計な一言だが、空になった食器を見て、私は満足だった。極力にやつかないように「どうも。」と言った。
「意外、その二。部屋に呼ぶなんて大胆だね。」
櫻井さんに言われ、この状況に初めて気づく。確かに、付き合い始めで自分の部屋に呼ぶのは大胆と思われても仕方ない。
「そ、そういうつもりで呼んだんじゃないですから!大体、櫻井さんは私のこと好きで付き合ってるんじゃないんですよね?」
「避けていたから、好きにさせたかった。
つまり、世の中の女は全員自分に好意を持っていないと気がすまない、ということですよね?」
「まんまと騙されたわけですよ、私は。」
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