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私はあの嵐の日の出来事を思い出していた。
切なげな表情も、声も、優しく抱き締めてくれた両手も、全ては自己顕示欲を満たす為の布石だったかと思うと、自分が自分で情けない。簡単に落ちてしまったのだから。
「やっぱり面白いな。」
今度は、噛み殺すような笑い方。
「からかわないでください!」
「まぁまぁ…。で?この後の予定は?」
「映画みましょう!映画!」
私は今朝借りてきたばかりの恋愛映画をデッキにセットした。なんでも泣けるとの噂だ。
男は女の涙に弱い。
これも何処かで聞いたことがある。
二時間後。
お世辞でも可愛いとは言えないほど号泣している私がいた。これは、引く。
「大丈夫?」
くくく、と堪えきれない笑いを溢しながら、櫻井さんが手渡したティッシュを受けとる。盛大に鼻をかんでいる姿は、はっきりいって間抜けだ。
「す、すみません。噂以上でした。油断しました。」
これでは、作戦失敗だ。
赤い瞼に、赤い鼻。
好きになってもらうどころか、逆に去っていかれるレベル。
「いや。別に?いいんじゃない?素直で。」
「そ、そうですか。」
今度こそ挽回を、と次の作戦へ移る。
「ちょ、何!?」
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