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私は櫻井さんの真横に座っていた。
男は香水の香りよりも、シャンプーや、石鹸の香りのする女性に弱い。
──はず。
朝から二度シャワーを浴び、お気に入りのシャンプーと、ボディーソープをふんだんに使ってみた。
これで櫻井さんをイチコロに──。
「…ほんと、意外。誘ってんの?」
「!?」
ばっ!と私は身を引いた。けれど、手首を捕まれ、彼の胸へと引き寄せられる。
「いや!違う!ちがくて!」
「…ふーん、いい匂い。シャンプー、かな?」
「……。」
私は真っ赤になり、俯いた。
ええと、これは成功したといってもいいのだろうか。
でも、これは予想外の展開だ。
これでは、翻弄させるどころか、こちらが翻弄されてしまっている。
「肉じゃがに、泣ける映画に、シャンプーの匂い、ね。努力は認めるよ。」
「う…。」
全部バレている。
「昨日のことは謝るよ。ただ──、誤解してる。」
「誤解?何をですか?」
「すごい剣幕だったから言えなかったけど…俺、田村さんのこと好きじゃないなんて言ってないけど?」
好きじゃないなんて言っていない?
「え?それって…」
「好きでもない子に手出すほど暇じゃないんで。」
「ごめんね。怒らせて。」
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