暴君に友はいない

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 冒険者は原則として、大迷宮から生還すると一度ギルド本部へと戻りその成果を報告しなければならない。  面倒くさいシステムだが、これは冒険者たちが無事大迷宮から”生きて帰還した“というれっきとした生存報告であり、”生きて帰ってこれなくて成果を報告できない“なんてことが日常化するこの業界では、このシステムはギルド職員にとって案外重宝されている。  まあ、中には生きて帰ってこなくていいのにという者や、そもそもそういうシステムとは無縁な殺しても死んでくれないような人種もいるので、そこらへんは各々の考え方次第ではあるものの。  ともかく、そういった理由でザンクロウが向かう場所はまず何よりも冒険者ギルド本部である。  道中、街中で大迷宮入り口で起きたようなことが幾度となく発生したが、本人はあまり気にする素振りは見せない。  どころか早速「友の仇!」と特攻してきた年若い冒険者を腕の一振りで軽く街の果てに吹き飛ばしたりしたものの、次の瞬間にはその青年の顔など忘却の彼方に追いやってしまう。  そう、これがザンクロウの日常である。  いくら悪童や魔人、絶対に敵に回してはいけない人物などと言われようと、それでも己に向かってくる蛮勇な愚者は後を絶たない。  彼自身いい加減慣れたもので、向かってくる輩は皆殺し、なんて大人気ない真似はとうの昔にやめていた。  それがこの憎悪の連鎖を引き止めるきっかけになるなんて毛ほども思ってはいなかったけれど、それでも一度のショッピングで襲撃される回数は目に見えて減っている気がした。  その後二回ほどあった襲撃を軽くいなしてやっと辿り着いた冒険者ギルド本部の扉を潜った。  いつもならば赤竜騎士団や銀閃乙女。グリードといった三大パーティーとも呼ばれる有力者達の使いっぱしり。言ってしまえば下っ端達がリアルタイムで情報を得ようとテンプレ的に酒場を兼用する一階の端で待機したりしているのだが。  常ならばそういった大型パーティーの使いっぱしりや、探索の終わりに一杯するチームなど。あるいは一階の奥にある掲示板に張り出された依頼書を前にうんうんと唸る冒険者だったり、ただの呑んだくれだったり、色々な人種がこの場に集まっているのだ。
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