暴君に友はいない

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 それだから、いっそ異様と言える静けさの中で扉を開いた音は大きく響いたのか。中へ一歩踏み出すと同時にギルド内にいる人々の視線が一斉にこちらへ向かう。 「……」  その圧力は常人なら次の一歩を踏み出す事をためらうほど。  しかし、ザンクロウにとってはこんなことはもはや慣れたもので、再び足を踏み出そうとしたところで顔見知りの一人がこちらへ近付いてきた。  その人物がザンクロウのもとへ来るまで他のギルドメンバーは互いを牽制し合うように目を光らせたり、あるいは堪えきれず目を逸らしたり、端から見ればどういう状況なのか見当がつかない。  表情に出す事はないけれど、人知れず困惑していたザンクロウにどこか胡散臭い笑みを浮かべた優男が声をかけた。 「やあザンクロウくん。まずは七十八階層からの帰還おめでとう」  馴れ馴れしく声をかけてきたこの男は若い見た目からは想像出来ない事だが三大パーティーにも数えられる大型有力パーティーグリード。その主であるトイフェルだ。  相変わらず何を考えているのかわからない一流の職人が作った仮面のような笑顔に辟易としながら、とりあえず状況を把握しようと祝いの言葉を軽く受け流す。 「野垂れ死んだっててめぇにゃ関係ない事だろう」 「おやおや、連れないねぇ。それで、最深部はどうだった?」 「それこそ潜る気もないお前に言ったってしょうがないだろ。大体よぉ、俺の話は参考にならねえってほざいたのはどこのどいつだったか」 「ふむ? 君にそんな事を言うとはとんだ命知らずもいたもんだねぇ」  わざとらしく首を傾けてあっけからんと言ってのける。その様子にザンクロウは軽く眉を顰めながら、 「……ところでよ、この状況はどうなってんだ?」 「どうもこうも、君の帰還を察知してどいつもこいつも祝いの言葉を捧げに来たのさ」 「……まあ、グリードがいるのは百歩譲ってわからなくもないけどよ。赤竜騎士団に銀閃乙女、その他諸々有名どころが集まって祝いの言葉だぁ? まだ全員グルになって俺を八つ裂きにしようって方が納得出来ら」  信頼も信用もないけれど、他の探索者に比べて比較的交流の機会が多かったグリードの頭が七十八階層からの帰還という美味しい話を聞いてすっ飛んでくるのは先程も言った通りわからない話ではないのだ。
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