暴君に友はいない

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 その事を自覚しているからこそ、彼は自分の性格を改めようと思った事は一度もない。  きっと自分は、この凶悪な攻撃性を、いっそ異常と言えるまでに至ったこの力を、一身に受け止めそれでも裏のない笑顔を向けてくれる天使のような人がいれば簡単に靡いて崩れるだろう。  そこに真実の幸せがあるかどうか。理解するのはこの身が腑抜けに落ちてからだ。  ならば、せめてその時がくるまで力の限りもがいてやろうと。  だからこそ誰も信用せず、信頼せず、闘争と逃走を重ねて一人殻に閉じ籠り続けた彼は人肌の温もりを求めようとした事はなかった。それでも空しさに襲われて涙を流す事もある。  いくら魔人と呼ばれ、殺戮者と恐れられ、自身が比類なき化物であると自覚していようとも、その心の本質は未だ人のままだった。  そう、人肌が恋しくないわけがないのだ。しかし、彼が何かを求めれば求めるほど、望んだ物は遠く離れてしまうから。  だったらもう求めるのはやめようと、離れてしまうのなら、目が届かなくなる前に壊してしまおうと。  結局心は弱いままだ。  ならば、弱い部分は武力で補おうと心に決めて、しかしそれでも足りぬと自覚し自らの性質すら歪めたザンクロウは今、苛立ちの頂点にいた。  発端はそう、トイフェルの言葉に従いギルドマスターのもとへ訪れた事か。  一度籠れば数ヵ月地上へ帰らない彼だから、稀に地上へ戻った時に所有しているダンジョンから持ち帰った成果はとてつもない量になる。  あまり人の輪を好まない性質は、報告に売却、必要物資の収集などどうあっても人の目から逃れられない行動を出来るだけ迅速に終わらせる事に繋がった。  だからこそ常ならば、ギルドマスターへの報告もどうせあんな深部まで潜るのは自分ぐらいだからと二言三言の杜撰なもので済ませ、一応の帰還祝いだとグリードの連中も交えて祝杯をあげ酒を浴び、次の日になれば諸々の準備を整えその日の内に再びダンジョンへ潜る排他的な生活を続けていた訳だけれど。 「そういえば、七十八階層突破の功績を称えて各国からの懸賞金を取り下げたからそこんところよろしく!」  
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